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節約生活や読書の記録を綴ります

村田沙也香 『コンビニ人間』 文春文庫 

村田紗耶香『コンビニ人間』 文春文庫 2018年

 

[あらすじ]

「いらっしゃいませー!」36歳。コンビニアルバイト一筋で働き、食事もコンビニ、夢の中でもコンビニで働く、交際歴なしの女性の物語。

「普通」とは何か?を問う衝撃作 (文庫本帯より)

[感想]

これは、古倉恵子という、ベテランコンビニ店員さんの物語です。

帯に「普通」とは何か?を問うとありますが、ここでは「普通」の言葉の意味自体が正直、限定的なものだと感じました。

周囲にとっての常識的価値基準のような。

コンビニ店内における彼女の仕事ぶりは非常に優秀です。客の小さな動きや小銭の音までキャッチして、迅速に、無駄なく振る舞い、なおかつ客を不快にさせない一歩引いた対応をしています。

手本の真似をすることが得意だった彼女は、コンビニのマニュアルを完璧にマスターしました。そして、この生き生きとした成功体験を通して、初めて「世界の正常な部品としての私」(P.25)が誕生し、生きているという実感を味わいます。

 

小さな頃から彼女は、「奇妙な子」と親や周囲から思われていました。「普通の子」になるために、何かを修正しなければならないが、その何かが分かりません。だから、余計なことを口にせず、周囲の「普通」に合わせようと「真似をして」生きてきました。

 

自分の行動や考えが、「普通ではない」といわれるため、彼女は自分を押し殺し生きていたのです。

 

ここでの「普通」は、世間にとってのあるべき子供の姿です。元気に友達と遊ぶ、死んだ小鳥を悲しみ、花をちぎってお供えする…等。

 

確かに幼少の彼女のとらえ方は、現代日本の常識から外れたものだったかもしれません。父親が焼き鳥好きだからと、死んだ小鳥を焼いて食べようと言う等…(P.12)

ただ、親や周囲の常識の中で否定され続けたことで、彼女の根底にあるやさしさや純粋な感情すべてが押し殺され、失敗体験を植え付けられ、生きづらさを助長させてしまいました。

 

小鳥を焼いて食べようといったとき、最初から否定せず、彼女の行為を理解したうえで、現代日本の常識を伝えて行けば、これだけ賢い子なので、理解できたと思います。

 

「どうして恵子は小鳥さんを焼いて食べようと思ったの?」「お父さんが焼き鳥大好きで、妹も唐揚げが好きだからか...そうだね。恵子は優しいから、お父さんや妹を喜ばせたいと思ったんだね。」

「でも、小鳥さんの気持ちになったらどうだろう?」「痛かったよね。」「大好きなお父さんや妹が死んでいたら、恵子どう思う?」そして、このように供養の事などを少しずつ伝えて行けば、また違ったのかもしれません…

これは、あくまで私が感じたことですが、自分の主観を入れずに「受け入れる」「受け止める」ことが、特に発達障害を持つ人等に対しては大切なのだと思います。

「何でわからないの」「何でできないの」ではなく。

成長過程で否定され、失敗体験を積み重ねた彼女ですが、コンビニでの成功体験から文字通り生まれ変わったようになりました。

 

物語の途中、婚活目的の男性や、地元の友達との交流が描かれ、居心地の悪さを感じながらも「普通」に懸命に合わせようとする彼女の姿が描写されています。

 

そのような世界にありながら「コンビニ」は唯一彼女が彼女らしく輝ける場所でした。

無意識化にある辛さから逃れるために「早くコンビニに行きたいな」と思うくらい。

 

紆余曲折を得て、最終的に彼女は自分が「コンビニのために存在している」(P.161)と実感します。そして、初めて「意味のある生き物」(P.161)だと思うことができました。

 

「コンビニ」は彼女にとっての「生きがい」

恵子が恵子らしく生きるためにコンビニを必要とし、コンビニも優秀な恵子を必要としています。社会の一員としての役割を果たしています。

 

恵子が言われ、感じて来た「普通」はあくまで周囲にとっての当たり前の価値基準でしかありません。

 

コンビニ店員である恵子の在り方を、「普通」として受け入れられる社会になることを願います。

 

さいごに、この本を読むとなんだかコンビニに行きたくなりました😊