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節約生活や読書の記録を綴ります

乃南アサ『いつか陽のあたる場所で』 新潮文庫 

乃南アサ『いつか陽のあたる場所で』 新潮文庫 2010年

NHKドラマを観て、原作を読んだ作品です。

[あらすじ]

 東京の下町、谷中を舞台にした、前科持ちの二人の女性による再生物語。

 マエ持ち女シリーズ三部作の第一弾で、主人公たちが重い過去を背負い、引きずり、躊躇しながらも、懸命に前を向いて歩き出そうとする物語です。

[感想]

 私は最初、この作品をNHKのドラマで知りました。

 主人公の過去を引きずっている姿が、自分と重なりました。そして、心の闇を抱えながらも懸命に自分の人生をやり直そうとする姿にすごく励まされていました。 

 主人公の小森谷芭子(はこ)29歳と江口綾香41歳は、それぞれ誰にも言えない過去を背負っていました。

 前科です。芭子は昏睡強盗罪で、綾香は夫殺しによる殺人罪でした。
 芭子は刑期を終え、出所しますが、家族からは絶縁されました。祖母が遺した古い家と、一時金として多少の額を受けとりましたが、その後は自力で生きていくよう告げられます。
 大学時代に逮捕され、20代のほとんどを刑務所で過ごした芭子は、社会人経験も資格もなく、履歴書に7年もの空白期間がありました。何とか結婚し、離婚したということで埋め、やっと時給は低いが、家から近い場所の小さなマッサージ治療院のアルバイトに採用され、週5日、働き始めます。
 綾香は、パン屋で製造の見習いスタッフとして、パン職人の道を歩き始めます。
 これは、そんな暗い過去を抱えた2人が互いに支え合いながら、小さな喜びや日々の何気ない暮らしを大事にし、過ごしていく物語です。生きる意味を見出せず、1人で何もできなかった芭子でしたが、米の研ぎ方から、洗濯の仕方まで綾香から教えられ、芭子の暮らしは次第に整っていきます。綾香もまた、深い闇を抱えながら、明るく振る舞い、パン職人への道を懸命に歩んでいます。

 私がこの作品を初めて知ったのは、介護士として歩み始めた頃です。

 前科等の過去ではないですが、ずっと振り返りたくない、苦い思い出でいっぱいでした。

  だから、この主人公の姿にとても共感を覚えました。そして、過去を抱えながらも前に進みだそうという勇気をもらえた作品です。

 「過去」は消す事はできません。だから、せめて「現在」と「未来」は変えられるので、一歩ずつゆっくりでも前に進んで、「未来に繋がる今(現在)を」大事にしたいと思います。
 芭子は、いつも過去に怯えていましたが、その中でも目の前の家事やアルバイトをすることで前に進んでいました。そして、生活の中にささやかな幸せを見いだし、自分のかけがえのない今を大事に生きていました。

 私も、そのようにゆっくりでもいいから、進んでいきたいなと思います。