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節約生活や読書の記録を綴ります

垣谷美雨『姑の遺品整理は、迷惑です』 双葉文庫

 

垣谷『姑の遺品整理は、迷惑です』 双葉文庫 2019年

[あらすじ]

捨てたい嫁、捨てない姑の家を片づけるはめにー

どうしてこんなに溜め込むの⁉ (本書帯より)

 

誰もが直面する ”人生の後始末”をユーモラスに描く「実家じまい」応援小説(カバーあらすじより)

 郊外の団地で一人暮らしをしていた姑が、脳梗塞で突然亡くなりました。そして、主人公の望登子が姑の遺品整理をすることになったのですが...

 大量の衣類や食器から、不要な家電、植木まで、部屋中に埋め尽くされたモノに愕然とします。

 業者に頼むと100万近くになるため、自力で頑張ろうとしますが、全然、不用品は減りません。

 途方に暮れ、亡き姑の「安物買いの銭失い」「溜め込み癖」を恨めしく思う日々。

 そんな時、ひょんなことから助っ人が現れ、徐々に姑の知らなかった温かい人柄に気づかされます。

 遺品整理を通して、その人の歩んできた日々、そして自分の生き方を見つめ直す「人生の店じまい」の小説です。

 タイトルとは逆に、読後は、温かな気持ちになれる作品でした。

 また、自分のモノや生活を見つめ直し、心がスッキリとした気持ちになれる一冊です。

[感想]

 主人公は50代半ばのパート主婦。残り少ない自分の人生を考えつつ、まだまだ住宅ローンや孫の世話で、自分の時間を取り戻せていません。

 そんな時に、姑の遺品整理が降りかかったのだから、亡き姑への恨みは募るばかりでした。

 身辺整理をし、負担をかけなかった実母を懐かしみ、「もったいない」と処分を渋る夫にイライラしながら遺品整理を進めていきます。

 作品の随所に、粗大ごみの大変さや姑の食材ストック、望登子さんの手際のよい手料理等、日常生活の何気ない場面が描写されています。

 そして、姑の多喜が、スーパーの帰りに倒れ、そのまま亡くなる等、すべてが日常の何気ない生活の中で起こっていました。

 この小説は、不用品を処分について、ひとつひとつ現実の苦労をしっかりと描いているので、ハウツー本より説得力や共感がありました。

 引っ越しで経験があるのですが、実際、大量のモノを分別し、処分する作業は、時間もかかり、それだけで神経を消耗してしまいますから。

 ハウツー本であれば省略される「モノと向き合い、処分する」工程の心情が、あえて描かれているので、すごく共感できました。

 そして、それが生き方を見つめ直す作業だということにも気づかされます。

 望登子の親友、冬美の言葉がとても印象的でした。

 冬美は、エリート教育を施されて育ちました。親が望んでいたからです。しかし、冬美は思い通りの娘にはなれず、母にとって蔑視の対象でした。

 だから、母親を冬美はずっと憎んでいました。

 しかし、自身も親になった今、このように言います。

「親になるというのは誰であっても初めての経験でしょう。だから、うまくやれる方が奇跡だと思わない?」

「子供たちに、もっとこうしてやればよかった、ああしてやれていればって思うことがいっぱいあるもの」(P.149)

 …私は以前、もし親が子供の頃に自分の発達障害に気づいてくれていたら…と感じることが度々ありました。チックの症状がひどく、学校は地獄の場所で、生きづらい子供時代だったから。

 でも、この言葉で、人生も、親になることも「リセット」できない、戻ることはできない、一方向なのだと気づかされました。

 振り返れば「ああしていれば良かった」と思うことも、当時はわからないのですよね。

 だから今、それを糧に前に進むしかないのだなと実感しています。

 冬美さんは、過去の母の過ち、憎しみを、自分の子育てを通じて受け入れ、高齢の母の世話を引き取ります。

 小さなエピソードですが、すごく印象に残る場面でした。

 そして、自分も「リセット」はできないけれど、これまでの経験を糧にして、これからの人生を大事に生きていきたいと感じました。

 この作品は、遺品整理をつうじて、その人の生き方を振り返る作品ですが、自分の死の際にどうあるべきか、終活にもつながる一冊だと思いました。