原田マハ『生きるぼくら』徳間文庫 2015年
原田マハ『生きるぼくら』徳間文庫 2015年
[あらすじ]
いじめから、ひきこもりとなった24歳の青年、麻生人生(あそう じんせい)の物語。
母が突然いなくなり、かつての記憶をたよりに祖母のいる蓼科へ。
そこで認知症の祖母と再会し、同じくいじめから対人恐怖症になり、心を閉ざして生きていた女性と出会います。
人生は、あることがきっかけでケータイを捨てました。
そして、周囲の助けを借りながら清掃の仕事に就き、社会復帰の道を歩み始めます。
これは祖母、マーサばあちゃんの米づくりを通して、「生きる力」を取り戻していく再生の物語です。
[感想]
生きる力と元気が育つ本 第1位 稲のようにすくすく伸びて (本書帯より)
上記の帯と、本書のあらすじを見て、本屋で購入した本です。
認知症やいじめ、対人恐怖といった、今までの自分と重なるものがたくさん本書の中にあり、惹きつけられました。
主人公やつぼみに、自分を重ねながら読み終えました。
東京のアパートでの描写ー人生のコンビニ飯や、清掃パートを掛け持ちしている母の生活がありありと目に浮かびます。
そして、気持ちが重くなります。
対照的に、蓼科の祖母の家ーふかふかの陽だまりの布団、台所から漂う味噌汁の匂い、旬の野菜がたくさん入った、人の温もりが感じられる美味しいご飯。
決して豪華ではないけれど、それだけで心を満たしてくれる気持ちになれました。
また、本書文庫本の表紙になっている東山魁夷さんの「緑響く」の風景。
マーサばあちゃんが「いちばん大好きな場所」の御射鹿池を訪れたいと思いました。
ばあちゃんは、いつもこの場所に来て、自分の人生を振り返ったり、未来を夢見たりしていたのだと言う。人生という長い川に浮かび上がる大きな泡も小さなあぶくも、この湖は、黙ってすべてを受け止めてくれる。ただ静かで、どこまでも深い包容力に満ちた、一枚の絵のような風景。(P.159)
この作品全体を通して、澄み渡った空気や、山の風景、心が解放されていくような自然の力がすごく感じられます。
そして何より、祖母のマーサさんを通して、今自分に与えられているものへの感謝や、当たり前のお味噌汁の匂い、変わらない日常の大事さに気づかされました。
この作品には、認知症の進行や対人恐怖、引きこもり等、かなり重いテーマがちりばめられています。
ですが、暗い物語ではなく、読み終えた後、明るい気持ちで前に踏み出そうという気持ちになりました。
私は、今、障害者就労を目指し、手帳申請中の身で、正直不安でいっぱいですが、
一歩踏み出す勇気をもらえた気がします。
人生につまずいている多くの人に読んでほしい作品です。
そして、美味しいお米、おにぎりを味わってほしいなと思いました。
…今、社会においても戦争や値上げ等で生活も不安定ですが、贅沢ではない、今ある幸せに目を向けて、生きていきたいなと感じます。